ショート
□戯言ヒロインがちゃらい闇口に遭遇しました。
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それは街中を歩いていた時の事でした。
「貴兄が乾きしときには我が血を与え、貴兄が飢えしときには我が肉を与え、貴兄の罪は我が贖い、貴兄の咎は我が償い、貴兄の業は我が背負い、貴兄の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴兄に献上し、我が栄えの全てを貴兄に奉納し、防壁として貴兄と共に歩き、貴兄の喜びを共に喜び、貴兄の悲しみを共に悲しみ、斥候として貴兄と共に生き、貴兄の疲弊した折には全身でもってこれを支え、この手は貴兄の手となり得物を取り、この脚は貴兄の脚となり地を駆け、この目は貴兄の目となり敵を捉え、この全力をもって貴兄の情欲を満たし、この全霊をもって貴兄に奉仕し、貴兄のために名を捨て、貴兄のために誇りを捨て、貴兄のために理念を捨て、貴兄を愛し、貴兄を敬い、貴兄以外の何も感じず、貴兄以外の何にも捕らわれず、貴兄以外の何も望まず、貴兄以外の何も欲さず、貴兄の許しなくしては眠ることもなく貴兄の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴兄からの言葉にのみ理由を求める、そんな惨めで情けない、貴兄にとってまるで取るに足らない一介の下賤な奴隷になることを
―――――――ここに誓います。」
『…は?』
いきなり奴隷宣言されちゃいました。
これ、どうすればいいの?
『冗談じゃないよねー。
ほらほら、来るな寄るなどっか行け。』
「へいへい、仰せのままに。」
『あ、ちょっと待って。
はーい、ストップストップ。』
「お前マジざけんなよ!命令統一しろよ!!」
『捨てるぞ』
「ごめんなさい調子こきました。」
『とりあえず話合いからだよね。
うふふー、雪織ちゃんは平和主義だからねぇ。』
「辞書で"平和"と"破壊"の項目を穴が開くほど見て来いよ、お前は何かを勘違いしている。」
『黙れよ愚民。
どうして私と主従契約を結んだのか、簡潔に答えなさい。』
「それは『はいアウトー。』
短ぇよ!まだ三文字しか言ってねえだろうが!!お前話聞く気ねえだろ!」
『そこから落とそうか。』
「申し訳ありません頼みますから話しを聞いてくださいここは屋上です落とされたら死にますマジで勘弁してください」
『ふうん、仕方ないなあ。聞いたげるから、早めにね?』
「…やばい俺泣きそう。」
『なんで私に仕えようと思ったのかな?』
「話しが通じそうだったからです。」
『ふーん、へえ、そう。もう終わり?帰っていいかな私。』
「ちょ!ま、待て!!
俺、主人に仕えたら一時間当たり五万貰えるらしいんだよ!一日にして百二十万!」
『え、ほんと?』
「ほんとほんと!」
『よし、話はわかった!』
「け、契約してくれるのか!?」
『上がり三割で!!』
「乗ったあああああ!」
お互いの利益が一致したところで、がしっと握手をする。
たとえどんなに動機が不純でも、人助けっていい事だよね!
「お前やっぱり最高!金の亡者万歳だぜ!」
『金の亡者と呼ぶな!
雪織ちゃんはただの合理主義!!』
握った手に力を込める。
骨の軋む音がした。
「痛えっ!折れる折れる!」
『折れろ折れろ!』
「爽やかな笑顔でかぶせんな!洒落になってねぇよ!!」
『うふ、うふふふふ』
まあ、お金のためだしね、鬱陶しい奴隷も我慢しよう。
本日の収穫:従者(闇口)。
(軋兄ー。見てみてー、街で闇口拾ったのー。)
(雪織…、あれ程捨て猫や捨て犬を拾うなって言ったのに…。)
(犬扱いかよ俺。)